拝啓 啓蟄の候、リグル様におかれましてはいっそうご活躍の事と拝察いたします。
って、人間が交わしてる手紙を真似して書き始めてみたんだけどさ、啓蟄って言葉、個人的には腑に落ちないんだよね。啓蟄って、冬籠りしてた虫が這い出るって意味でしょ? この時期に? まだ寒いじゃん!!
いや、三月の頭くらいに土から出てくる虫もいるのは分かるよ? でもさ、なんというか、主語が大きいことによる同調圧力みたいなのをこの言葉からは感じるのよ。「虫ならこの時期に出てこんか!!」みたいな。
あとさ、人間って「虫が出てきましたねえ」みたいな言葉を使う裏で「春眠暁を覚えず」なんて言っている裏で布団とか炬燵に籠もってるじゃん。これは不公平だよ。「虫が起きてるんだから人間も起きるべきだ」とは私は言わないさ。「人間だけでなく虫にも暁を覚えない権利を!!」とは声を大にして主張したいね。
というわけで私はもうしばらく寝てます。もっと暖かくなったらまた起こしに来てください。
敬具 敬具って、最後につけるんだよね。なんか書き忘れてないっけ?
ああ、名前書くの忘れてた。分かると思うけれどね。エタニティラルバです。
拝啓 世間では啓蟄などと言っていますが、雪はまだ残っていますしなんならまだ時々みぞれが降ります。そちらはいかがお過ごしでしょうか?
ま、そんな天気だから寒いのが苦手ならまだ出てこないのが正解だよ。人間如きの評価で気に病むことじゃない。例えば蝉の幼虫は夏になるまで出てこないということはみんな知ってるはずなのにそれはそれとして啓蟄を語るんだ。主語が大きいというか雑なんだよ、人間の虫に対する解像度って。私はそういうのに抗いつつ虫の妖怪をやってる。
とはいえ啓蟄のときに出てくる虫もいる。そして虫を統べる者としては啓蟄こそ一年の始まりとして祝いたい時である。これは解って欲しい。もう少し引き篭っていたい君みたいなのにとっては耳障りかもしれないけれどね。暖かくなったらまた遊ぼう。
あと封筒見たら差出人の名前は分かるから便箋に名前を書く必要は別にないと思うよ。多分。
敬具
追伸:そうだ。手紙を出したということは起きてはいるね? 食べ物の備蓄は大丈夫?
拝啓 備蓄確認したよ。野菜がもうちょっと欲しいかな。
敬具
拝啓 野菜か。カボチャならあるからそれにしようか。顔のくり抜きはスマイリーフェイスにしておくね。
敬具
拝啓 何か別の季節の行事が混ざってない?
敬具
拝啓 気にしない気にしない。私、リグル。今貴方の玄関の前にいるの……。
敬具
拝啓 直接家に来て呼び出すときに拝啓と敬具はいらないと思うよ。
敬具
拝啓 そっちこそ。久しぶりだね。
敬具