オリキャラが物語を動かす、異色の東方二次創作 同人誌レビュー『阿求と二三シリーズ』/涼来来!
同人誌レビュー『阿求と二三シリーズ』/涼来来!

はじめに
こんにちは。今回「涼来来!」さんの『阿求と二三(ふみ)シリーズ』レビューを執筆させていただく、人形使いです。
普段はブログ『A Day in The Life』にて、東方二次創作作品の感想を執筆しています。また、東方我楽多叢誌ではこれまでに、東方クロスオーバー小説同人誌『魔界の人』や、東方同人誌総集編『ムガムビル9』などのレビュー記事を寄稿させていただきました。
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今回紹介する『阿求と二三シリーズ』は、サークル「涼来来!」が2013年より執筆を続けている作品です。2025年10月時点で、総集編2冊と既刊1冊が発行されており、今年には最終巻となる『いつか訪れるその日』の刊行が予定されている長編シリーズとなっています。
本作では、阿求と稗田家の書庫で生まれた妖怪・文車妖妃の少女・二三を中心に、不思議であたたかな親子の形が描かれます。小学校の図書館に並んでいそうな、読みやすいですます調の文体と、心温まる物語が大きな魅力です。
そんな本作最大の特徴は、一貫してオリジナルキャラクターである二三を主軸に据えて物語が展開されている点にあります。今回のレビューでは、この点にフォーカスして掘り下げていきたいと思います。
「阿求と二三シリーズ」とは?
「それは、ちょっと不思議で とても素敵な オヤコのカタチ」
(阿求と二三シリーズ①「おかあさんとよばれて」より引用)
本作の発端は、ある日、阿求が稗田家の書庫で見つけた赤ん坊から始まります。その赤ん坊は無表情で、いっさい言葉を話しません。やがて明かされるその赤ん坊の正体は、書物を運ぶ車輪がついた木箱――文車の付喪神である文車妖妃でした。
稗田家の器物から生まれた妖怪ということで、阿求はその子を「二三」と名付け、育てることを決意します。急激に成長し、8歳程度の姿になった二三は、阿求と少しずつ「オヤコのカタチ」をなしていくのです。

まず二三の出自は、「稗田家の文車が妖怪化した付喪神の子ども」という、東方原作の世界観に自然に溶け込む設定となっており、その存在を違和感なく受け入れることができます。巻末にはキャラクター紹介として詳細なプロフィールも掲載されており、東方キャラクターのお約束でもある「〇〇程度の能力」も、「いつでもどこでも紙と筆を取り出せる程度の能力」として設定されています。
「(かきかき、……さっ)」
(阿求と二三シリーズ随所から引用)
この能力も設定だけで留まることなく、基本的に言葉を話さない二三の大切なコミュニケーション手段として作中で活かされています。作中随所で二三は「(かきかき、……さっ)」と紙と筆を取り出し、そこに文章を書いて筆談を行います。
二三は前述の通り、無表情かつ言葉を話さない設定で、なおかつ本シリーズは小説作品であるため、ビジュアルによって二三の感情を表現することができません。しかし、この設定が文章媒体で二三の感情をダイレクトに表現できる手段として、さらには彼女を強く印象付ける描写として、作劇的にも有効に機能しているのです。
一方で、二三のもうひとつの能力である「読みたい(読むべき)本がどこに存在しているか分かる程度の能力」も、稗田家の文車から生まれた妖怪という出自を踏まえると、必然性と納得感のある設定です。この能力も単なるフレーバーではなく、物語の要所を動かす鍵として、さまざまなエピソードで効果的に用いられています。
そしてなにより魅力的なのが、二三のストレートな愛らしさです。生まれたばかりの妖怪である二三が、さまざまな人々と関わっていく様子は、本作の大きな軸のひとつとなっています。その中で二三は、前述した能力を通じて、無表情であることが信じられないほど豊かでみずみずしい感情を見せてくれます。
その様子が特に楽しめるのが『稗田図書館をつくろう!』のエピソードでしょう。阿求といっしょにパチュリーの地下図書館を訪れた二三がたくさんの本に大興奮したり、危険だから行くのを止められていた地下図書館へどうしても行きたくなり、「この図書館に幻想郷演技の編纂に必要な資料がある」と嘘をついてしまったりと、小さな子どもらしいお転婆な描写が随所に描かれており、個人的にも特に印象に残っているエピソードです。
また、私自身が個人的にシリーズでいちばん好きな、魔理沙が悪ふざけで自分にふさわしい本を探して来るように頼むくだりがあるのもここです。二三が魔理沙に持ってきた本は分厚い刑法の本。
「(かきかき、……さっ)『これをよんで、なにがわるいことなのか、おぼえて』」
(阿求と二三シリーズ②「稗田図書館を作ろう」より引用)
このシーンは、個人的にも本当に大好きです。このように、本作のオリキャラである二三は、原作キャラや設定から逸脱することなく、なおかつ強い魅力的を備えたキャラへと仕上がっています。
しかし実のところ、二次創作におけるオリキャラの投入は、非常にリスキーな行為でもあります。というのも、二次創作に登場するオリキャラはしばしば、いわゆる「メアリー・スー(欠点がなく、あらゆる側面で過剰な活躍をする、ご都合主義的な最強キャラの通称)」になってしまいがちだからです。
こうしたオリキャラが投入されてしまうと、原作キャラクターや設定がそのオリキャラを引き立てるための踏み台となり、物語全体が原作とかけ離れた「オリキャラ無双」に終始してしまうケースも少なくありません。
ところが本作は、その逆を行きます。オリキャラである二三を据えることで、むしろ原作世界の魅力を引き出し、非常に完成度の高い二次創作として成立させているのです。では、本作はオリキャラを投入することで、どのようにして二次創作としての魅力を高めているのでしょうか?
次の章で詳しく解説しましょう。
オリキャラという「新しい関係」の提供者
本シリーズの作者である涼名さんから直接聞いたのですが、本作は「二三を主人公にしない」ということに気をつけて書いているそうです。
では、二三は直接的にストーリーに関わらないかというと、そうではありません。むしろ二三は、本シリーズの主軸を担う存在と言えるのです。なぜなら本シリーズは、二三と阿求の相互フィードバックに支えられた成長物語でもあるからです。
「この子は、稗田家の子供として私が育てます」
(阿求と二三シリーズ①「おかあさんとよばれて」より引用)
たとえば、記念すべき第1話「おかあさんと呼ばれて」のタイトルは、総集編第1巻のタイトルともなっています。このタイトルからも分かる通り、阿求は生まれたばかりの妖怪である二三の母親代わりとなって、彼女の世話をすることになります。ネタバレになりますが、この第1話では二三が阿求を「おかあさん」と呼ぶという、大きな変化で幕を閉じます。そして総集編2巻のタイトルは「そして、家族になる」。このタイトルだけでも、阿求が二三とのふれあいを経て大きく変化したことが分かるでしょう。
また、本作には阿求以外にももうひとり、二三の登場によって新しい関係性を構築しているキャラがいます。それは藤原妹紅。
私、妹紅さんが大好きです――
(阿求と二三シリーズ④「永久に、となりに――」より引用)
本シリーズには、阿求と二三の関係性以外に、阿求と妹紅の物語というもうひとつの主軸があります。
本作において妹紅は、阿求や二三のピンチを何度も救い、彼女らを影に日向に守ってくれます。阿求もそんな妹紅にいつしか強く惹かれていきます。そんな中で、阿求は妹紅に近しい存在である慧音に我知らず嫉妬を覚えたり、妹紅が見ているのが自分ではなく自分の前の八代目阿礼乙女「稗田阿弥」であることに気づき、落胆するといったエピソードもシリーズ内で語られます。これらの関係性の中で、妹紅が阿求とどのような関係を築いていくかというのも本作の重要な軸なのです。
そして、この阿求と妹紅の関係性の深まりや変化をもたらすきっかけとなったのが、やはり他ならぬ二三なのです。総集編2巻収録の阿求と二三シリーズ⑦「そして、家族になる」にて、阿求と妹紅の物語が結実します。
紆余曲折を経て、妹紅は稗田家の使用人として働きつつ、阿求のそばにいることを決意します。その決意を妹紅から伝えられた二三は、こう返すのです。
「(かきかき、……さっ)『うん、いいよ! おかあさんがふたりいてもいいよね!』
(阿求と二三シリーズ⑦そして、家族になる)
この「家族」のかたちは、二三なくしては成立し得ません。ストーリー的な意味でも作劇的な意味でも、二三はいわば、点と点を結びつける線の役割であると言えるでしょう。
作品を支えるオリキャラと既存キャラをうまく扱うバランス感覚
これまで述べてきた通り、本作は二三というオリキャラを通して原作キャラの関係性を深め結びつけることで、二次創作では非常にリスキーなオリキャラ投入を行いながらも、しっかりと魅力的でなにより原作を尊重した二次創作に仕上がっています。
オリキャラ、とりわけ二次創作に登場するオリキャラは、活躍の場が増えすぎて原作キャラよりも出番が多くなってしまいがち。そうなると、東方二次創作の読者は一次創作を求めているわけではないので、ミスマッチが起こってしまいます。二次創作へのオリキャラ投入は、読者にとっても作者にとってもリスキーでハードルの高いものなのです。
しかし本作では、出番がどちらかに大きく偏ることもなく、オリキャラと原作キャラどちらの魅力も楽しめる構成となっています。言い方を変えれば、原作にはいないオリキャラという新しい視点で原作キャラを見つめ直すことができるのです。
オリキャラを投入した二次創作である本作は、原作キャラの魅力も、原作にいてもおかしくない説得力を持ったオリキャラの魅力も、同時に味わえる作品であると言えるでしょう。本作が成功している一番の要因は、前述した特徴を前提としたオリキャラと原作キャラの扱いに過剰な差が出ないようにするバランス感覚だと言えます。
終わりに
ともすれば「メアリー・スー」になりかねないオリキャラ投入も、本作のように書き手の工夫次第で、原作へのリスペクトを保ったまま魅力的な二次創作として成立させることが可能です。
二次創作においてオリキャラの投入が絶対に避けるべき行為というわけではありません。作中での立ち位置や役割、原作キャラクターとのバランスを丁寧に設計することで、原作世界を尊重しながらオリキャラを自然に物語へ組み込むことができるのです。
今回取り上げた「阿求と二三シリーズ」は、そうした成功例のひとつとして、二次創作の自由度が極めて高い東方二次創作というジャンルの懐の深さをあらためて感じさせてくれる作品だと言えるでしょう。
東方二次創作にはさまざまなアプローチがありますが、一風変わった切り口の作品を読んでみたい方、そして二次創作にオリキャラを取り入れてみたいと考えている方にこそ、本シリーズを強くおすすめしたいと思います。
作品情報
作者名:
涼名作品名:
阿求と二三シリーズサークル名:
涼来来!作者SNS
・X(Twitter):https://x.com/suzusiro_suzuna
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